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菅野朝子歌集『花巡る』

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しばらくを倚子に依れども能登の酒尽きる頃密かにいなくなる山百合ひとつ咲かせながらに

かつて岡井隆率いる朗読会で注目を集めた歌人、菅野朝子。長い沈黙を経て、ふたたび歌を作り始めたとき、いくつかの歌は不可解なリズムを有していた。どこか仏足石歌や長歌を思わせる一首一首の声が、濃密な音楽の流れとなってこちらに向かってくる。身体の中から噴きだすような重い言葉の流れが、短歌の韻律を壊そうとするのだ。枯れないという凄絶な悲しみに、私は圧倒されるばかりであった。
佐伯裕子

否(ノン)だけはやけにはっきり言うじゃない 皿に置きざりのフォアグラ
ああきみはかぐわしき御者夜をまとい星をまといて雪はこび来し
されど愛恋れもんのさまに絞りぬくゆめわたくしを蜜と思うな

〈歌と女と、いやいや、をんなと歌なのだ、辛き地上を去るその日まで〉(『ヴォツェック/海と陸』)と詠った岡井隆こそは、菅野朝子の師であった。相聞なき時代に、感情の残高のほぼ全額を相聞に賭けた、さにつらう第三歌集。

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