立山連峰[島田達巳/著]

雪深い国から出郷した青年は、「三つの職種と五つの職場」(あとがき)を移りながら、社会的なキャリアを築いていった。いわば立身出世を果たしたのだが、島田さんの歌にはそういう成功者にありがちの嫌みがない。ここに引いた歌に笑まずにはいられないのだが、盗みたいという衝動の走った後ろ暗い記憶。おずおずと友の煙草ケースに手を伸ばすうしろめたさ。小心なところもあるのだろうと思うが、それらを何の邪気も無くみずからの上にうべなう。島田さんのこころの生地にはそういう素直さがある。(阿木津英「跋」より)


学会の研究発表ある朝は不安がよぎる七十歳(ななじゅう)のいまも
たばこ絶ち一年を経ておずおずと友の煙草箱(ケース)に手を伸ぶる夢
終戦後盗りたくなるほど欲しかりしバナナひと房百円に買う

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